新型コロナウイルスによるコロナ禍が、全世界に蔓延しています。新型コロナウイルスの起源は、自然発生説と人工合成説とで対立していますが、今のところ、確定していません(鈴木善幸、「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の起源と進化」、生物の科学遺伝、vol.75, No.1, p34-42 (2021))。
そんな中、WHOは、新型コロナ感染症の医薬品やワクチンの特許の一時放棄することを議論しています(新型コロナ医薬品の知財保護免除案:反対国は交渉をこれ以上引き延ばしてはならない)。新型コロナウイルス対策関連特許を一時的に積極的に開放する企業もでてきています(開放特許情報データベース)。
そこで、新型コロナウイルス薬とコロナウイルス関連特許についてまとめてみました。コロナ禍が収まるまで、内容をアップデートしてゆくつもりです。
□□新型コロナウイルス薬のまとめ□□
新型コロナウイルスに対する予防薬及び治療薬の研究が、現在盛んにおこなわれていいます。薬剤は、以下のように、ウイルス予防薬、抗ウイルス薬、対象療法薬の3つのカテゴリーに分類しました。開発が最も急がれる薬剤が抗ウイルス薬であることはいうまでもありません。
それらの薬剤 はさらに、ワクチンのような新薬と、既存薬を新型コロナ用に転用する ドラッグリポジショニングの2種類に分類できます。新薬の開発が途上である現在においては、既存薬のドラッグリポジショニングが重要といえます。
(1)ウイルス予防薬
カテゴリー | 機能 | ドラッグリポジショニング・新薬の候補 |
消毒剤 | エンベロープ溶解 | 界面活性剤、石鹸、アルコール、次亜塩素酸、銀塩 |
ワクチン | 弱毒化、不活化、組み換えベクター、DNAワクチン、RNAワクチン | ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ |
機能性食品 | 免疫調節・賦活化 | ビタミンA・C・D、亜鉛、ω3必須脂肪酸、エキナセミア(出典1) |
新型コロナウイルス(下図)は、直径約100nmの球状の表面にあるエンベローブ(E)蛋白質に、ヒトの細胞のACE2受容体と結合するスパイク(S)蛋白質が刺さった構造を有します。ウイルスの外観が王冠の見えることから、ギリシャ語の王冠(corona)を取ってコロナウイルスと命名されました。
エンベローブ(E)蛋白質内には、約30,000塩基の一本鎖RNAからなるゲノムとそれに結合するヌクレオカプシド(N)蛋白質が収容されています。したがって、新型コロナウイルスは、一本鎖RNAを持ったエンベローブウイルスに分類されます。
新型コロナウイルスが二重脂質膜でできたエンベローブで包まれていることは、石鹸やアルコールによる消毒が可能である点で有利です。
一方、コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなRNAウイルスは、複製ミスを修正する機能を持たないため、変異を起こしやすい点で不利です。
(2)ウイルス治療薬
機能 | ドラッグリポジショニング・新薬 | |
ACE2結合阻害剤TMPRSS2膜融合阻害剤 | ウイルスの細胞への侵入防止 | ナファモスタット(フサン®)、カモスタット、バムラニビマブ |
中和抗体 | ウイルスの細胞への侵入防止 | カリシマブ/イムデビマブのカクテル中和抗体 |
ウイルス増殖抑制剤 | ゲノム複製阻止 | レムデシベル、ファビビラビル(アビガン) |
コロナウイルスに感染した患者は、下のコロナウイルスの侵入・増殖メカニズムの連鎖をどこかで断ち切るような治療薬が必要となります。
ACE2結合阻害剤や中和抗体は、侵入・増殖メカニズムの①をターゲットにしています。
TMPRSS2 膜結合阻害剤であるナファモスタットは、下図のように、TMPRSS2活性を阻害することでSタンパク質による膜融合を阻害します。
(3)対症療法薬
機能 | ドラッグリポジショニング・新薬 | |
ステロイド | サイトカインストーム抑制 | デキソメタゾン(デカドロン) |
IL-6阻害薬 | サイトカインストーム抑制 | トリシズマブ(アクテムラ) |
JAK阻害薬 | サイトカインストーム抑制 | バリシニチブ(オルミエント) |
血栓症予防薬 | 血栓・塞栓症、脳梗塞の予防 | ヘパリン製剤 |
新型コロナウイルスの標的は、ACE2受容体を持つ細胞であり、具体的には、(1)肺胞上皮細胞、(2)血管内皮細胞、(3)免疫担当細胞です。
これらの細胞にコロナウイルスが侵入すると、体は外敵に対して防衛反応をとります。この防衛反応が過剰になると、(1)肺胞上皮細胞では、肺炎、(2)血管内皮細胞では、凝固異常や血栓形成、(3)免疫担当細胞では、過剰な炎症(サイトカインストーム)が現れてしまいます。
図の出典:朝日新聞デジタル記事「コロナ重症化招く「免疫の暴走」、阪大などが端緒を解明」
□□コロナウイルスの予防薬、治療薬に関連する特許□□
2019年の12月頃に新型コロナウイルスが発生して以降、新型コロナウイルス対策の特許出願が世界的に精力的に行われています。しかし、その数はまだまだ少ないようです。
コロナウイルス感染症の歴史を見ると、2002~2003年にアジア及びカナダで重症急性呼吸器症候群(SAES)、2012年にアラビア半島で中東呼吸器症候群(MERS)が発生しています。当時も、コロナウイルス対策の特許が数多く出願されました。
新型コロナウイルスと同じコロナウイルスに属するSARS及びMERSウイルスの関連特許もまた、新型コロナ感染症対策に有用と考えます。以下に、SARS、MERSを含むコロナ関連特許を抽出しました。
抽出した特許は、基本的に特許になったものを挙げていますが、新型コロナウイルス解明について何かの役立つようなものは、情報を共有するために出願中のものもリストしています。
抽出特許に特許庁のデータベース(J-platpat)へのリンクも貼りましたので、適宜、発明の内容や現在の法律状態をご参照ください。
◎ウイルス予防薬>消毒剤
特許第6884447 「コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)を含む広範な微生物に有用な抗微生物剤」 (財)新医療財団 出願日:2020年11月6日 |
【課題】コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)を含む広範な微生物に有用な新規抗微生物剤を提供すること。 【解決手段】金属イオンと、L-システインと、L-アスコルビン酸と、界面活性剤とを含む、微生物に対する抗微生物剤であって、前記微生物がコロナウイルスを含む、抗微生物剤が提供される。コロナウイルスは、SARS-CoV-2であり得る。本発明の抗微生物剤は、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクターおよびカンジダにも効力を有し得る。 |
特許第6820579 「抗ウイルス剤及びウイルスの除去方法」 大阪ガスケミカル株式会社、(公)福島県立医科大学 出願日:2020年2月5日 |
【要約】 種々のウイルスを速やかに不活性化することができる抗ウイルス剤及びウイルスの不活性化方法を提供する。 【請求項1】金属粒子を含有する抗ウイルス剤であって、 前記金属粒子が白金粒子及び平均粒子径が10nm以上である銀粒子を含有する、抗ウイルス剤。 |
特許第6795720 「コロナウイルス不活化剤」 花王株式会社、(学)北里研究所 出願日:2020年7月17日 |
【要約】 優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤の提供。 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びにアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、 前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、 前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。 Y≧5000×X-1.5 (1) |
◎ウイルス予防薬>免疫賦活薬
特許第4671092 「ウイルス感染予防および対策」 (株)ライフ・サイエンス研究所他 出願日:2003年11月20日 |
【請求項1】ビタミンC及びアルギニンを有効成分とするウイルス感染の予防剤であって、該ビタミンCについて少なくとも300~500mg/kg/日の投与量であり、前記ウイルス感染のウイルスが、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス及びコロナウイルスからなる群より選択されることを特徴とするウイルス感染症の治療剤。 |
◎ウイルス予防薬>スーパーオキシド産生抑制剤
特許第6836229 「ウイルス増殖抑制剤」 三井農林株式会社、国立大学法人東京医科歯科大学 出願日:2016年8月10日 |
【請求項1】式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤。 【化1】 |
(R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表し、R1及びR3のうち少なくとも1つは水酸基である。R2及びR4は水素原子又はガロイル基を表し、R2及びR4のうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【化2】
(R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す。)
式(1)のプロアントシアニジンカレート類は、茶、大黄、ヤマモモ、ヨーロッパブドウ、ツルドクダミ、アカメガシワから抽出・精製します。一方、式(II)のテアシネンシン類は、烏龍茶や紅茶から抽出・精製します。
◎ウイルス治療薬>ACE2・TMPRSS2発現阻害剤
特許第6906127 「アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)及び/若しくはTMPRSS2発現を阻害するための組成物、又は、コロナウィルス感染症の予防剤若しくは治療剤」 株式会社バイオミメティクスシンパシーズ 出願日:2021年2月5日(優先日:2021年1月29日) |
【課題】アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)及び/又はTMPRSS2の発現を阻害するための組成物を提供すること。 【解決手段】アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)及び/又はTMPRSS2の発現を阻害するための組成物であって、前記組成物は、フォークヘッド型転写因子FoxO1阻害剤を含む組成物。阻害剤が、AS1842856又はAS1708727(キノロン系化合物X)であり、新型コロナウィルス(SARS-CoV2)感染症(COVID-19)を治療およびまたは予防する組成物。 |
出典:株式会社バイオミメティクスシンパシーズの2021 年 4 月 14 日付けプレス発表
特許第6854029 「SARS-CoV-2とACE2タンパク質との結合阻害用組成物」 大幸薬品株式会社 出願日:2020年6月24日 |
【課題】 SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とACE2タンパク質との相互作用を阻害し得る化合物等を探索する。 【解決手段】 SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質とアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)タンパク質との結合を阻害するための組成物であって、有効量の二酸化塩素を含む、組成物を提供する。 |
図の出典:大幸薬品株式会社の2020年10月15日付けプレスリリース
大幸薬品株式会社は、上記特許の権利化商品として「クレベリン」を製造販売していますが、その有効性についてはいろいろと議論されているようです(東洋経済オンライン2020年3月20日「大幸薬品の「クレベリン」はコロナ対策になるか」)。
◎ウイルス治療薬>ウイルス増殖抑制剤
特開2021-116295 「SARS-CoV-2感染の治療における置換アミノプロピオン酸化合物の使用」 アカデミー オブ ミリタリー メディカル サイエンシズ(中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院) 出願日:2020年10月14日 パリ優先権:2020年1月21日出願の中国特許出願第202010071087.7号 |
【課題】SARS-CoV-2の感染により引き起こされる関連疾患の治療に用いることができる化合物、及び該化合物を含む医薬組成物を提供する。 【解決手段】式Iにより表される置換アミノプロピオン酸化合物(すなわちレムデシベル)、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物、並びに該化合物を含む医薬組成物。 |
特開2021-116296 「コロナウイルス感染の治療におけるファビピラビルの使用」 アカデミー オブ ミリタリー メディカル サイエンシズ( 中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院 ) 出願日: 2020年10月14日 パリ優先権: 2020年1月21日出願の中国特許出願 202010070142.0号 |
【課題】コロナウイルス、特にSARSコロナウイルス(SARS-CoV)およびSARS-CoV-2の感染により引き起こされる関連疾患の治療に用いることができる、コロナウイルスに対して抗ウイルス活性を有する薬を提供する。 【解決手段】コロナウイルス感染を治療するための、式Iにより表されるファビピラビル化合物(すなわちアビガン)、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物、並びに該化合物を含む医薬組成物。 |
新型コロナ感染症(COVID-19)は、Timeline of the COVID-19 pandemic in January 2020によれば、2019年12月1日に武漢市に原因不明の肺炎患者が発生したと最初に報告されました。2020年1月21日提出の中国特許出願明細書(優先権証明書)には、2019-nCoVウイルスによる様々な感染症状、 ウイルス株を用いた細胞試験(中国科学院武漢ウイルス研究所により提供)、さらに既存薬であるアビガンとレムデシベルを新型コロナウイルス治療薬に使用する用途発明が記載されています。
特許第6804790 「N4-ヒドロキシシチジンおよび誘導体ならびにそれらに関連する抗ウイルス用途」 エモリー ユニバーシティー 出願日:2018年12月7日 |
【請求項5】患者における、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、チクングニアウイルス、ロスリバーウイルス、オルトミクソウイルス科ウイルス、パラミクソウイルス科ウイルス、RSVウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、フィロウイルス科ウイルス、もしくはエボラウイルス感染を治療または予防するための組成物であって、以下の構造: 【化116】 |
を有する化合物またはその薬学的に許容可能な塩もしくは生理学的塩を含む、組成物。 【請求項6】患者における、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、チクングニアウイルス、ロスリバーウイルス、オルトミクソウイルス科ウイルス、パラミクソウイルス科ウイルス、RSVウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、フィロウイルス科ウイルス、もしくはエボラウイルス感染を治療または予防するための組成物であって、以下の構造: 【化117】 |
を有する化合物またはその薬学的に許容可能な塩もしくは生理学的塩を含む、組成物。 |
関連情報:
Coronaviruses (CoVs) traffic frequently between species resulting in novel disease outbreaks, most recently exemplified by the newly emerged SARS-CoV-2, the causative agent of COVID-19. Here, we show that the ribonucleoside analog β-d-N4-hydroxycytidine (NHC; EIDD-1931) has broad-spectrum antiviral activity against SARS-CoV-2, MERS-CoV, SARS-CoV, and related zoonotic group 2b or 2c bat-CoVs, as well as increased potency against a CoV bearing resistance mutations to the nucleoside analog inhibitor remdesivir. In mice infected with SARS-CoV or MERS-CoV, both prophylactic and therapeutic administration of EIDD-2801, an orally bioavailable NHC prodrug (β-d-N4-hydroxycytidine-5′-isopropyl ester), improved pulmonary function and reduced virus titer and body weight loss. Decreased MERS-CoV yields in vitro and in vivo were associated with increased transition mutation frequency in viral, but not host cell RNA, supporting a mechanism of lethal mutagenesis in CoV. The potency of NHC/EIDD-2801 against multiple CoVs and oral bioavailability highlights its potential utility as an effective antiviral against SARS-CoV-2 and other future zoonotic CoVs.(Timothy P. Sheahan et.al., “An orally bioavailable broad-spectrum antiviral inhibits SARS-CoV-2 in human airway epithelial cell cultures and multiple coronaviruses in mice”, Science Translational Medicine 29 Apr 2020: Vol. 12, Issue 541, eabb5883)
特許第6188963 「インフルエンザを治療するための化合物および方法」 ロマーク ラボラトリーズ エル.シー. 出願日:2016年4月28日(優先日:2009年6月26日) |
【請求項1】 患者のウイルス感染を治療するための医薬組成物であって、 前記ウイルス感染はパラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、および呼吸器合胞体ウイルスから選択されるウイルスによって引き起こされ、 有効量のニタゾキサニドまたはその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物。 |
この特許は、インフルエンザウイルスを対象として特願2012-517679(原出願)の分割出願です。
原出願の発明は、インフルエンザウイルスの表面に存在する糖タンパク質(HA:ヘマグルチニン又は血球凝集素)の成熟をニタゾキサニドをはじめとするチアゾリドが選択的にブロックして、細胞内運搬及び宿主細胞原形質膜への挿入を障害するという作用機序によって、抗ウイルス性を発揮するというものです。
今回の特許の対象であるコロナウイルスには、HAに変えてSタンパク質が存在するので、原出願で言われるようなHAの成熟をブロックするという作用機序は成り立ちません。それでも、ニタゾキサニドにはコロナウイルスに対する抗ウイルス活性があることを実施例で示し、特許を得ました。
京都大学の奥野恭史教授らは、スパコン「富岳」で2,000種類超の新型コロナ治療薬候補を選別した結果、数十の候補中の三番目の優先順位としてニタゾキサニドが選ばれました(スーパーコンピュータ「富岳」によるCOVID-19治療薬探索)。
シミュレーション結果によれば、ニタゾキサニドは、ウイルスの増殖にかかわるタンパク質(nsp5)に結合してその機能を抑えるようです。ニタゾキサニドをコロナウイルスの増殖抑制剤に分類してよいかもしれません。
ニタゾキサニドがMERSの治療候補薬となることも報告されています(Jean-François Rossignol,”Nitazoxanide, a new drug candidate for the treatment of Middle East respiratory syndrome coronavirus”,J Infect Public Health. 2016 May-June; 9(3): 227–230)
ニタゾキサニドとアジシロマイシンとの併用が新型コロナの治療に効くとの報告もあります(Mina T Kelleni, “Nitazoxanide/azithromycin combination for COVID-19: A suggested new protocol for early management”,Pharmacol Res. 2020 Jul; 157: 104874)。
◎ウイルス治療薬>マイクロビサイド
特開2021-13375 「糖鎖結合性ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド及びそれを含む医薬組成物」 国立大学法人広島大学 出願日:2020年6月18日(優先日:2019年7月11日) |
【課題】種々のウイルス疾患の治療や診断のための薬剤として利用できるように、高マンノース型糖鎖に対して顕著に高い結合性を示す改変されたレクチン変異体(ポリペプチド)を提供できるようにする。 【 請求項1】紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンKAA1の4リピート配列のタンデムリピートを有することを特徴とするポリペプチド。 【請求項6】請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスが原因となるウイルス疾患の治療用又は診断用医薬組成物。 【請求項7】前記ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)又は単純ヘルペスウイルスであることを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。 |
SARSコロナウイルスには、高マンノース型糖鎖が多数結合しています。それに特異的に結合する紅藻レクチンには、哺乳類への感染を防ぐ抗ウイルス剤としての利用が期待できます(Barry R. O’Keefe,”Broad-spectrum in vitro activity and in vivo efficacy of the antiviral protein griffithsin against emerging viruses of the family Coronaviridae”,J. Viol. 2010 Mar;84(5):2511-21)。
この発明の抗ウイルス剤は、紅藻レクチンをタンデムリピート(縦列反復)に改変することよって糖鎖結合能力をさらに高めようとするものです。
SARS-CoV-2もまた、Sタンパク質が下図のように22個の高マンノース型グリカン(糖鎖)で修飾されています。紅藻レクチンやその変異体は、新型コロナの予防や治療への利用が期待できます。
図の出典:渡辺恭永、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のグリカンシールド、生物工学第98巻、第11号(2020)、p580-582