機能性表示食品の用途特許を取得する

機能性表示食品制度とは

機能性表示食品とは、食品の機能性や安全性に関する科学的な根拠(エビデンス)をもとに、食品のパッケージに 機能性(ヘルスクレーム)を事業者の責任で表示し、消費者庁に届け出た食品をいいます。

機能性表示食品登録制度は、平成27年(2015年)4月に開始されました。

機能性表示食品の法的枠組みは、以下のとおりです。

医薬・医薬部外品(薬機法)
食品(食品衛生法第4条)一般食品
保健機能食品個別許可型特定保健用食品(トクホ)
食物繊維、オリゴ糖等

規格基準型栄養機能食品
ビタミン、ミネラル、n-系脂肪酸等
事前届出制企業責任型機能性表示食品
食品の機能
第一次機能性:栄養機能
第二次機能性:嗜好・食感機能
第三次機能性:生体調節機能

上表を見ると、食品は一般に栄養機能性を有するので、食品はすべて健康食品である(まさしく医食同源)といえます。

機能性表示食品をはじめとする保健機能食品は、主に生体調節機能を明示することで一般食品と一線を画しています。

そして、機能性表示食品は、自己責任型であるものの、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品と比べて、登録が簡便かつ安価である点でハードルが低いのです。

機能性表示食品の特徴を、以下に簡単にまとめます。
1.未病者(未成年、妊産婦及び授乳婦を除く)を対象とした食品である。
2.すべての食品(生鮮食品を含む)が対象である。
3.「安全性」及び「機能性」の根拠となる情報や健康被害の情報収集体制を販売前に消費者庁に提出する。
 安全性の評価:安全性試験の既存情報、in vitro試験、動物実験、ヒト臨床試験
 機能性の評価:ヒト臨床試験、研究レビュー
4.届出者の責任において機能性表示を行う。
5.届出された情報はすべて消費者庁のウエブサイトで公開、事後修正は随時アップデートする。
6.健康被害の情報収集窓口の設置

機能性表示食品の表示項目

機能性表示食品のパッケージには、以下に示す内容が求められます。

・機能性表示食品の明示
・届出番号[****]

・機能性の根拠
 「〇〇の機能があります/報告されています」
(疾患の治療・予防効果を記載又は暗示させるような表示はご法度です。)

・一日当たりの摂取目安量、摂取方法
・一日当たりの摂取目安量に対して機能性関与成分(mg)の表示

・注意書き
 「医薬品ではありません。
 疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。
 患者、未成年者、妊産婦、授乳婦を対象としていません。
 食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」等

・お問合せ先

消費者庁機能性表示食品データベースを見てみる

消費者庁へ届出された機能性表示食品は、消費者庁の機能性表示食品の届出情報検索ウエブサイトで公表されます。

検索例:ルテイン

機能性表示食品の形態的分類

は、大きく分けて3種類あります。

形態上の分説明食品形態のイメージ
ドリンク型機能性関与成分を配合した、液状の加工食品
サプリメント型機能性関与成分を配合した、粉末状、錠剤状の加工食品
明らか食品加工食品型機能性関与成分が取り込まれている一般的な惣菜や食材
天然素材型機能性関与成分を発現させ、また高めるように開発された生鮮食品

ドリンク型やサプリメント型は、健康志向の消費者をターゲットとした機能性表示食品に多く見られる形態です。
食品発明の用途特許も比較的取りやすいと考えます。

加工食品型は、機能性関与成分を新たに添加したものや、食材から機能性関与成分を取り込むようにしたもの等、いろいろあります。
特許を取るのはなかなか難しいですが、特許を取れた暁には、機能性表示食品のビジネスを強力にサポートする手段となるでしょう。

天然素材型は、天然素材に機能性を付与する開発力を要します。
開発が成功した暁には、パイオニア商品のトップランナーに立つことができます。

機能性表示食品の機能別分類

機能性食品表示制度が始まって約8年経ちましたが、その届出件数は6000件を超え、令和4年度の市場規模は5462億円に達しました。

一方で、特定保健用食品(トクホ)は、減少傾向を示しています。

機能性表示食品が目指したい主な健康食品市場は、現在のところ、以下のヘルスクレームが主流です:
1.脂肪低減、糖吸収抑制
2.ストレス緩和、疲労感軽減
3.腸内環境、便通改善
4.血圧、血流機能
5.眼の機能、光刺激保護、コントラスト調整
6.認知・記憶力
7.肌の保湿(弾力・バリヤ機能)
8.膝関節機能、筋力維持

(阿部皓一、「機能性表示食品の動向と問題点」、Vitamins (Japan), 93 (3), 123-127 (2019)を参考に加工)。

製品数トップの訴求効能は、ダイエット(脂肪に関するヘルスクレーム)であり、ダイエット製品の需要の多さがうかがわれます。

昨年と比べると、ストレス軽減の伸び率が高いですが、これは、ストレス軽減のニーズが高いことに加えて、ストレス軽減の特定保健用食品が存在せず、機能性表示食品市場が受け皿となっているためと考えられます。

主な機能性表示関与成分は何?

機能性表示食品の主要な機能性関与成分として、以下のもの:
1.機能性デキストリン(ダイエット、腸内環境)
2.GABA(血圧、ストレス軽減)
3.DHA、EPA(ダイエット、記憶力)
4.ビフィズス菌(腸内環境)
5.ルテイン(眼の機能)
6.イチョウ葉フラボノイド、テルペンラクトン(記憶力)
7.ヒアルロン酸ナトリウム(肌の機能)

が挙げられています。(出典:阿部皓一、「機能性表示食品の動向と問題点」、Vitamins (Japan), 93 (3), 123-127 (2019))

機能性表示食品と用途発明との関係

医薬品、機能性表示食品、用途発明の対象と効果は、以下のように相違します。

対象細胞レベル健常者患者予備軍患者
効果維持・増進改善・予防治療
医薬品
機能性表示食品
用途発明

 機能性表示食品のヘルスクレームは、疾患の治療・予防効果を暗示させないような表示をする必要があります。

医薬は、患者の疾患を治療することを目指しますが、機能性表示食品は、健常者や患者予備軍を対象に健康の維持・増進や疾患の改善・予防を目指します。

一方、用途発明は、機能性関与成分のin vitro、in vivo試験を含むあらゆる試験や対象に対して一定の効果を示せばよいのです。

それゆえ、機能性表示食品の登録と用途発明の特許化との間には、以下のような相違点やギャップが存在します。

機能性表示食品登録制度食品用途発明
機能性関与成分有効成分
機能性(ヘルスクレーム)機能性に基づく用途
機能性の科学的根拠
・製品を用いたヒト(健常者)試験、
又は
・機能性関与成分のシステマティックレビュー
発明の効果の実証方法
・細胞試験
・動物試験
・ヒト臨床試験
・官能評価等

食品の用途発明に関する審査基準の変遷

機能性表示食品登録制度をより実効性あるものにするため、機能性表示食品登録制度が発足して一年後、特許法の立場から食品の新規性に関する審査基準が改訂されました。

旧審査基準と改訂審査基準の対比を以下に示します。

旧審査基準(~H28.4)新審査基準(H28.4~)
用途発明とは、
(i)ある物(成分)の
未知の属性(機能性)を発見し、
(ii)この属性により、その物が
新たな用途への使用に適することを見いだした
ことに基づく発明をいう。
形式的には、請求項中に、「~用」といった、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載のことをいう。
食品分野の技術常識を考慮すると、食品として利用されるものについては、公知の食品の新たな属性を発見したとしても、通常、公知の食品と区別できるような新たな用途を提供することはない。食品に関する発明の請求項に用途限定がある場合には、用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有するものとして認定する。
「~用」と用途限定を付した食品の請求項では、新規性が否定されて、特許保護を受けることができない。「~用」と用途限定を付した食品の請求項では、新規性が肯定され、進歩性が認められれば、特許保護を受けることができる。

用途発明自体の定義は、審査基準の改訂前後で変わりありません。

今回の改訂審査基準が食品用途を審査の構成要件として認めたことは、食品メーカー等に一つのエポックメーキングとなりました。

多くの食品メーカーは、既存の食品発明の特許延命策として、食品の用途特許化を推進しています。

用途発明の記載様式

特許審査の上で食品の用途の特定が有効か否かの判断は、食品の用途発明に関する審査ハンドブック事例に詳しく解説されています。
この審査ハンドブック事例は、食品の用途発明の記載様式に、〇〇用組成物といった記載様式しか挙げていませんが、特許明細書や判例では、〇〇性組成物といった性質で記載された用途発明も多くみかけます。
「用」と「性」の一文字の違いで、特許審査基準と特許取得の可能性は大きく変わります。それは、特許の範囲の広さや特許侵害訴求の可能性にも大きく影響します。
そこで、両記載様式の審査基準、審査ハンドブックや判例の抜粋を以下にまとめました。
なお、食品用途事件の判例の蓄積があまり多くないので、化学品、医薬等の事件を採用しています。これらの判例は、今後の食品用途の知財判例のベースになると考えます。

記載様式用途限定記載がある性質限定記載がある
〇〇用組成物、〇〇用食品組成物、〇〇(用)剤〇〇性組成物、〇〇性食品組成物、作用機序剤
審査基準の内容I.原則
用途限定が付された物がその用途に特に適した物を意味する場合は、その物を用途限定が意味する構造、組成等を有する物と認定する。
(例)用途限定のあるものとして解釈される発明
成分Aを有効成分とする〇〇用剤、組成物、食品組成物、ヨーグルト、バナナジュース、茶飲料、魚肉ソーセージ、牛乳等
〇〇用剤との記載は、通常、動物又は植物を指すことはなく、食品分野においても、サプリメントや食品添加剤を示し、動物又は植物を包含するものでないと判断し得る
〇〇用組成物、〇〇用食品組成物との記載は、通常、当該用途に適した成分をなんらかの技術的手段によって配合するなどして得られた物を指し、動物又は植物を包含するものでないと判断し得る。
〇〇用食品との記載は、明細書等の記載や出願時の技術常識を考慮して、動物又は植物を包含すると判断される場合に、用途限定のない食品として解釈する。

用途限定の表現形式をとるもののほか、いわゆる剤形式や使用方法の形式等、用途限定の表現形式でないものにも適用され得る。
(例)有効成分Aを含有する塩味増強剤、えぐ味低減剤等
I.原則
その物が固有に有している機能、特性等を用いて特定しようとする場合は、原則としてその記載をそのような機能、特性等を有する全ての物を意味している解釈する
物として従来物と差別化できれば新規性あり。

(例)
本願発明 有効成分Aを含む中枢神経作用剤
先行技術 有効成分Aを含む抗精神病剤

上流側の作用機序で把握された用途発明とその下流側の医薬用途と同一発明であり、新規性は否定される。


II.例外
ただし、化合物、微生物、動物又は植物に「~用」の用途限定が付されても、このような用途限定は、一般に化合物等の有用性を示しているにすぎない。審査では、用途限定のない化合物等と認定する。
(例)骨強化用クロレラ・ブルガリス
骨強化用との用途限定は微生物であるクロレラ・ブルガリスの有用性を示しているにすぎないから、発明を用途限定のないクロレラ・ブルガリスとして解釈する。ただし、「クロレラ・ブルガリス含有骨強化用食品組成物」と補正すれば、用途限定も含めて認定される。
(例)用途限定のないものとして解釈される発明
〇〇用バナナ、〇〇用生茶葉、〇〇用サバ、〇〇用牛肉
II.例外
ただし、その物が機能・特性等を固有に有している場合は、単にその物に固有の性質を記載したにすぎない。その記載は物を特定するのに役に立っておらず、審査では、その物自体を意味しているものと解する。
(例)抗癌性を有する化合物X
抗癌性が化合物Xの固有の性質であるとすると、抗癌性の記載は物の特定に役立っていない。化合物Xが抗癌性を有することが知られたいたか否かにかかわらず、審査では、化合物Xそのものを意味すると認定する。
ただし、「化合物Xを有効成分として含有する抗癌剤」と補正すれば、用途限定と認定される。
判例I.原則
知高令3(行ケ)10066前腕部骨折抑制剤事件
(訂正発明)エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物。
技術常識によれば、当業者は、甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるために投与される薬剤であると認識するものといえる。・・・本件各訂正発明については、公知の物であるエルデカルシトールの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新規な用途への使用に適することはできないから、相違点Iに係る用途は甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」の用途と区別されるものではない。
 
東地平2(ワ)12094アレルギー喘息の予防剤事件
(請求項1)ケトチフェン又はその製薬上許容しうる酸付加塩を有効成分とするアレルギー喘息の予防剤
用途発明にあっては、既知の物質と未知の用途との結びつきのみが発明を構成するものであって、既知の物質について発見した新しい性質は単に結びつきを考え出すに至ったきっかけにすぎず、この新しい性質そのものは発明を構成するものではない。
本件発明は、既に公知の物質である本件化合物についてヒスタミン開放抑制作用という新しい性質を発見し、これを利用して未知の用途であるアレルギー性喘息を考えだした、いわゆる用途発明である。

  
知高平30(行ケ)10036IL-17産生の阻害事件
(本願発明)T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための、インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。
本件特許発明1の医薬組成物を医薬品として利用する場合には、特にIL-17を標的として、その濃度の上昇が見いだされる患者に対して選択的に利用するものということができる。
本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と、甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは、明確に異なるものということができる。
I.原則
知高平22(行ケ)10256スーパーオキサイドアニオン分解剤事件
(請求項1)
A ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,シクロデキストリン,アミノペクチン,又はメチルセルロースの存在下で
B 金属塩還元反応法により調整され,
C 顕微鏡下で観察した場合に粒径が6nm 以下の白金の微粉末からなる
D スーパーオキサイドアニオン分解剤。

(明細書の記載)
スーパオキサイドアニオン等の活性酸素種が関与する疾病として、「ガン、アトピー性皮膚炎、アルツハイマー、網膜色素変性症等」がある。

甲1には、構成A~Cに該当する白金微粉末は、ガン、糖尿病、アトピー性皮膚炎などの予防又は治療に有効であること期待されている・・・と認められる。・・・本件特許発明における白金微粉末を「スーパオキサイド分解剤」としての用途に用いるという技術は、甲1において記載、開示されていた、白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違なく、新規な方法(用途)といえないのであって、せいぜい、白金微粉末に備わった上記の性質を、構成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち、構成Dは、白金微粉末の使用方法として、従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない

知高平18(行ケ)100227シワ形成抑制剤事件
(本願発明)アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤
当業者が,本願出願当時,引用発明の「美白化粧料組成物」につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められず,本願発明の「シワ形成抑制」という用途は,引用発明の「美白化粧料組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。
II.例外
東高平8(行ケ)27セファロスポリン化合物製造用化合物事件
(本願第一発明)syn異性体・・・を含有する、実質上anti異性体を含まないセファロスポリン化合物製造用化合物又はその官能性誘導体
末尾は「化合物又はその官能性誘導体」で終わり、その前の「セファロスポリン化合物製造用」の記載も・・・セファロスポリン化合物の製造用の中間体であることを記載し、中間体である化学物質の有用性を記載しているにすぎないと認められるから、本願第一発明は、化学物質発明と認定すべきものと認められる。

生鮮食品型の機能性表示食品が少しずつ登録されてきました。しかし、特許法の審査基準上、〇〇用バナナといった生鮮食品の用途特許は認められていません。生鮮食品の保護は、今後も、物、プロダクト・バイ・プロセス、育成方法等の特許や、種苗法品種登録等の他の手段で保護されていくのではないでしょうか。

旧審査基準のもとで、機能性食品等を剤クレームとして記載すれば特許される風潮がありました。その場合、剤クレームは医薬の用途発明として特許性が判断されたと考えられます。
今回改訂された審査基準のもとでは、剤クレームは食品用途発明である公認されましたので、権利関係のあいまいさが薄らいだといえます。

シワ形成抑制剤事件の「シワ抑制」と「美白」を、作用効果と見るか用途と見るかは微妙です。作用効果であっても、新規な用途と直結しています。いずれにしても、発明が用途発明として特許されるには、性質、機能、作用機序といった属性が新規であったとしても、従来技術に対して発明の用途を客観的、外形的に区別できるか否かがポイントといえます。

用途発明の記載様式を用途限定と性質限定のどちらにするかは、個々具体的な事情によります。
用途限定の様式は、製品の用途が明確である場合に多く見受けられます。
性質限定の様式は、細胞実験のような基礎研究で得た作用機序等の知見からは用途の外延が定かでない場合や、得られた知見を広く権利化したい場合が考えられます。このような趣旨のもとで、性質限定様式の用途特許を取る必要性があると理解できます。一方、出願審査において請求項中の性質の記載をそのまま用途と捉えてもらえる事例は、「耐熱性合金」のような稀なケースなので、用途限定の趣旨で性質を記載することは、審査トラブルを招き易くあまり推奨されません。

機能性表示食品の用途特許を取得するメリット

機能性表示食品の用途特許を取得することによって、

・特許権者は機能性表示食品の製造販売等を独占実施できる、さらに

消費者庁の機能性表示食品登録データベースを見た者による届出内容の盗用や論文等のエビデンスの流用といった行為を有効に防止する

等の利益が生まれます。
機能性表示食品登録データベースではシステマティックレビューを閲覧可能なので、後者の利益は結構大事です。

機能性表示食品の用途特許の取得は、何故難しい

機能性表示食品の届出件数が6000件を突破しましたが、そのうち用途特許で守られているものは1割にも満たないと予想します。

特許法の食品用途発明の審査基準が変更されたにもかかわらず、機能性表示食品の用途特許の取得の盛り上がりはあまり聞こえてきません。

機能性表示食品の用途特許を取得することが難しい理由は、以下のことが考えられます。

今回の改訂審査基準では、機能性関与成分の物自体が新規である(旧来と同様)、機能性関与成分の機能に基づく用途が新規である、あるいは両方が新規である必要があります。

しかし、機能性表示食品の多くは、機能性関与成分と機能との関係が既に公知になっています(機能性表示登録の際に、9割が機能性の科学的根拠にシステマティックレビューを使用していることからもうなづけます)。したがって、通常の機能性表示食品の多くは、改訂審査基準の恩恵を受け難いといえます。

このような状況下にある機能性表示食品登録の届出者は、用途特許の取得をあきらめている感を受けます。
しかし、特許権の独占排他的効力に鑑みると、機能性表示食品の用途発明としての特許化をあきらめてしまうのは残念なことです。

食品の用途発明を特許にする方法

食品の用途発明を特許にする方法は、二つに大きく分けることができます。それを模式化したものが下図です。

機能性食品物又はその状態
 ・組成物として
 ・物性(パラメータ)が
 ・加工形態が
 ・製法物(プロダクトバイプロセス)が
 ・製造方法が
新規→→→→用途限定発明
機能性関与成分又は機能・属性
(用途)
   ↑↑↑
いずれも新規でない
新規→→→→用途発明

(1)機能性関与成分と用途の組み合わせが新規な場合

機能性関与成分を論文化し、機能性表示食品を登録するとともに、機能性に基づく用途を特許の構成要件とする用途発明の特許の取得を目指します。

以下は、用途発明の特許取得例です。

特許7165293
発明の名称:美容組成物

【請求項1】
 アルバローズ水蒸気蒸留残渣の親水性有機溶媒抽出物を有効成分として含む美容組成物。
【請求項2】
 前記親水性有機溶媒がエタノールである、請求項1に記載の美容組成物。
【請求項3】
 抗酸化活性、皮膚コラーゲン量産生、エラスターゼ阻害活性、及びAGE形成阻害活性の少なくとも一の機能を発揮させるための請求項1又は2に記載の美容組成物。
【請求項4】
 さらに、化粧品学的、皮膚病学的及び/又は薬学的に許容される添加剤を含む、請求項1~3のいずれかに記載の美容組成物。

ここポイント
ダマスケナローズ等から得られるローズエキスやローズウォーターを、経皮・経口の美容用途に適用することは一般に公知です。
アルバローズの水蒸気残渣の親水性有機溶媒抽出物は、従来のエキスやウォーターとは製法が異なり、その製法で得られる機能性関与成分自身もまた新規であると考えられます。このように、エキスの製造方法を特定することで、新規なローズエキスとして認定されました。

特許6977223
発明の名称:脈管内皮細胞賦活用組成物

【請求項1】
 明日葉エキスを有効成分として含む、脈管内皮細胞賦活用組成物であって、
前記脈管が静脈である場合は、前記明日葉エキスが明日葉の地下部のエタノール抽出物であり、そして
前記脈管がリンパ管である場合は、前記明日葉エキスが明日葉の地上部のエタノール抽出物である
ことを特徴とする、前記脈管内皮細胞賦活用組成物。
【請求項2】
 経口用である、請求項1に記載の脈管内皮細胞賦活用組成物。

ここがポイント
明日葉エキスに血行促進作用、利尿作用といった様々な機能性があることはよく知られています(「アシタバの機能性に関する研究と特許出願の動向」,東京農総研研報 3:81-87,2008)。
今回、明日葉エキスの由来(部位)を区別し、それらの部位に応じた細胞賦活作用という新規な機能性を発見しました。血管内皮細胞の賦活化によって動脈硬化や高血圧の予防、リンパ管内皮細胞の賦活化によってガンに対する免疫力を高めることが期待されます。

(2)機能性関与成分と用途の組み合わせが新規でない場合

機能性関与成分や用途が新規でない多くの機能性表示食品は、今回の改訂審査基準に基づいた用途発明の特許取得は望めません。
そこで、旧来の審査基準に基づいて、食品としての物自体に特許性を求めつつ、用途限定を付加します。
このように、物自体の新規性と進歩性を担保しつつ、用途限定の付加された発明を、ここでは用途限定発明と呼びますが、偽用途発明や推奨的用途発明の呼ぶ方もいます。
物自体が特許性を有するのに、あえて用途限定を付加する理由は、機能性表示食品としての権利を明確化するためです。特許が認められた暁には、他者が同じような機能性食品の参入を防護する壁となり得ます。

以下は、用途限定発明の特許取得例です。

特許7228211
発明の名称:肉様大豆加工食品及びそれを含む加工食品

【請求項1】
 豆腐、凍り豆腐、おから、抽出大豆たん白、濃縮大豆たん白、分離大豆たん白、脱脂大豆、大豆粉及び生大豆並びにそれらの中間生成物からなる群から選ばれる少なくとも一種の大豆加工原料を含む原料をエクストルーダーにより加熱加圧下で、前記大豆加工原料に由来する大豆β-コングリシニンを乾燥基準で3質量%以上含有するように押し出すことで得られる、前記大豆β-コングリシニンの含有量に基づいたBMI、血中中性脂肪及び内臓脂肪の少なくとも一種の過多の改善又は予防用の肉様大豆加工食品。
【請求項2】
 前記大豆β-コングリシニンが一日当たり2.3g以上で摂取されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の肉様大豆加工食品。
【請求項3】
 前記大豆β-コングリシニンの含有量が表示された機能性表示食品又は特定保健用食品である、請求項1に記載の肉様大豆加工食品。

ここがポイント
大豆β-コングリシニンの血中中性脂肪抑制作用等の機能性は公知です。
しかし、機能性食品をいわゆる大豆ミートの形態に特定することが新規かつ進歩性を有する発明と認定されました。

機能性関与成分の探索及び解析、ヒト臨床試験の実施、機能性表示食品の届出をアシストするような人材及び機関も紹介できます(お問合せへ→)。

機能性食品の特許調査へ続く→

Patent, Reseach and Consulting のNakajima IP Office
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