目次
・特許とは
・特許取得の流れ
・特許を取得するために知っておきたいこと
・特許を活用するために知っておきたいこと
特許とは
特許を付与された発明を、業として排他独占的に反復継続的に実施できる権利です。
ここで実施とは、発明製品の生産・譲渡・貸渡し・輸入などを言いいます。
保護対象:自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの 。
保護される発明の範囲:願書に添付される明細書の「特許請求の範囲」で決まる。
保護期間:通常、出願日から20年で満了(医薬は申請により5年延長有り)。
特許取得の流れ
①研究開発
研究開発と並行して技術情報調査を行います。
・調査内容:当該技術分野の技術動向、競合他社の企業動向、競合他社の権利化情報等
情報源:特許庁のJPlatPatや商用科学技術文データベース等
取得した情報を整理して、社内データベースやパテントマップを作成します。
②発明の完成
発明提案書を作成します。
発明の技術評価と以下のような出願戦略を検討します。
・基本発明 → 市場独占型出願(基本特許 + 周辺特許)
・改良発明 → 防衛的出願
・ノウハウとして出願留保
他社との共同研究の場合は、事前の契約の締結が重要となります。
③特許出願用明細書の作成
明細書のひな形に沿って特許記載要件(サポート要件や実施可能要件)を満足するように明細書を作成します。
出願前の新規性調査を行って、特許請求の範囲(将来の権利範囲)を、調査した先行技術と区別されるように決めます。
④特許出願
パソコンからオンライン手続きを行います。
優先権発生~出願から1年以内 に国内優先権又はパリ優先権を主張して、国内、外国 又はPCT出願が可能です。
国内優先権を利用する態様は、実施例補充や複数の出願の統合が考えられます。
➄出願公開
出願から1年半後に自動的に 公開特許公報(A)が発行されます。
1年半よりも早期の公開請求も可能です。
⑥出願審査請求
出願維持する価値の再確認した場合、出願から3年以内に 出願審査請求を行います。
出願人が中小企業やアカデミック分野の場合、出願審査請求料の1/2減額措置を検討します。
重要であれば早期審査の請求を検討する。早期審査請求制度は、一定の条件を必要とするが、 特許出願の非公開中に特許審査・取得可能というメリットがあります。
未審査請求は、出願のみなし取下となります。
⑦実体審査
出願審査請求から1~4年以内に、特許庁審査官が、明細書の記載不備や特許要件(産業上利用可能性、新規性、進歩性)などを審査します。
⑧拒絶理由通知とその応答
拒絶理由通知を受けることなく特許査定となることもあるが、通常は拒絶理由通知が来ます。
拒絶理由への対応方針を決定します。
・意見書や手続補正書を提出することによって反論します。
・分割出願または変更出願を検討します。
・拒絶理由の放置(将来自動的に拒絶査定)、出願取下、出願放棄の検討の余地ありです。
⑨特許査定又は拒絶査定
拒絶理由が解消されれば、特許査定を受けます。
一方、拒絶理由が解消されなければ、拒絶査定が来ます。
拒絶査定には、拒絶査定不服の審判を請求可能です。
拒絶査定審判請求時に手続補正すると、前審の審査官によって再審査されます。
➉特許料納付
特許登録料として、1~3年分の年金を納付します。
出願人が中小企業やアカデミック分野の場合、特許料の1/2減額措置を検討します。
⑪特許登録
特許権が発生します。
⑫特許公報(B)発行
特許公報発行後6ヵ月以内に、第三者が権利付与の判断に対して異議を申し立てる特許異議申立制度があることに注意を要します。
⑬特許権存続
4年目以降の年金を管理します。
年金を払い続ける限り、特許を維持できます。
年金未納は、特許権の消滅を招くが、1年以内であれば追納可能です。
⑭特許権消滅
年金を払い続けても、特許出願から20年後に は、特許の存続期間が満了します。
特許庁出願手続きのフロー
特許を取得するために知っておきたいこと
有効な検索を行うためには、審査官が特許法や審査基準に基づいて行う 特許性判断の手法を理解しておく必要があります。
特許性判断の手法に習熟することは、出願人に立場では、審査での拒絶理由通知対応、そして第三者の立場では、無効資料調査に役立ちます。
(1)明細書記載要件違反
・実施可能要件違反 : 明細書が当業者の実施できる程度に詳細に記載
・サポート要件 違反: 特許請求の範囲が明細書により支持
(2)新規性 違反
本願発明の構成が、出願前に公知のX文献のみで充足
X文献:当該文献のみで新規性又は進歩性を否定可能な文献
(3)進歩性違反
出願前公知のY1文献 + Y2文献→本願発明の論理づけが可能か
Y文献:他の文献と組み合わせることにより進歩性を否定可能な文献
・Y文献置換型の論理づけ
本願発明 = A + B
Y1発明 = A + b ⇐ Y2発明=B
・Y文献追加型の論理づけ
本願発明 = A + B + C
Y1発明 = A + B ⇐ Y2発明=C
進歩性の論理付けの3大要因と検討8項目
進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術的水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行われる。
進歩性不利に働く要因 論理づけ可→進歩性無し 論理づけ不可→進歩性有り | 進歩性有利に働く要因 論理づけ可→進歩性有り 論理づけ不可→進歩性無し |
動機付け ①最適材料の選択・設計変更に過ぎない ②単なる寄せ集めに過ぎない ③技術分野の関連性がある ④課題の共通性がある ➄作用・機能の共通性がある ⑥引用発明中に示唆がある | ⑦引用発明に阻害要因がある |
⑧引用発明と比較した有利な効果がある |
動機づけと阻害要因及び/又は有利な効果とが存在する場合、それらの強弱が勘案されます。
要因①~⑧の判例は、拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟や、特許権侵害訴訟で無効論で多数存在します。それらの判決が従来の審査基準と齟齬する場合は、適宜、特許法の審査基準の変更を促します。
そこで、要因①~⑧に関する特許法の審査基準の概要を以下に示します。
① 設計事項等
一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到することができたものと考えられる。
② 周知・慣用技術の転用
発明を特定するための事項の各々が機能的又は作用的に関連しておらず、発明が各事項の単なる組み合わせ(単なる寄せ集め)である場合も、他に進歩性を推認できる根拠がない限り、その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。
③ 技術分野の関連性
発明の課題解決のために、関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば、関連する技術分野に置換 可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
④ 課題の共通性
課題が共通することは、当業者が引用発明を適用したり結び付けて請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
引用発明が、請求項に係る発明と共通する課題を意識したものといえない場合は、その課題が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題であるかどうかについて、さらに技術水準に基づく検討を要する。
なお、別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。
試行錯誤の結果の発見に基づく発明など、課題が把握できない場合も同様とする。
➄ 作用・機能の共通性
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明特定事項との間で、作用、機能が共通することや、引用発明特定事項どうしの作用、機能が共通することは、当業者が引用発明を適用したり結び付けたりして請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
⑥引用中の示唆
引用発明の内容に請求項に係る発明に対する示唆があれば、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
⑦ 阻害要因
出願人が引用発明1と引用発明2の技術を結び付けることを妨げる事情(例えば、カーボン製のディスクブレーキには、金属製のそれのような埃の付着の問題がないことが技術常識であって、埃除去の目的でカーボン製ディスクブレーキに溝を設けることは考えられない等)を十分主張・立証したときは、引用発明からは本願発明の進歩性を否定できない。
⑧ 有利な効果
引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合 には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。
しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲 を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発明の発明特定事項とが類似していたり、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準か ら当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される。
特に、後述する選択発明のように、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属するものについては、引用発明と比較した有利な効果を有する ことが進歩性の存在を推認するための重要な事実になる。
化学系特許で攻め・守る
特許権を活用するには、以下が考えられます:
(1) 自社利用
・競業排除によるマーケットシェア確保
・知的財産権担保融資の検討 (融資制度)
(2) 実施権のライセンシング
目的は、
・高率ライセンスによる開発投資の回収
・低率ライセンスによるデファクトスタンダード化
・クロスライセンス
です。
特許契約の知識を習得し、ライセンス事項を必要十分に検討することが重要です。
実施権の特許庁への登録は必要ありません。
(3)知的財産紛争
特許侵害をはじめとする知的財産紛争は、まず以下の項目を理解しておくことが大事です。
(i)権利一体の原則
権利一体の原則とは、特許請求の範囲の全ての構成要件を充足する行為のみが特許請求の範囲を充足するという考え方です。
特許請求の範囲 | 第三者の実施 |
特許の構成要件:A+B | 実施品:Aのみ → 非侵害 実施品:Bのみ → 非侵害 実施品:A+B → 侵害 実施品:A+B+C → 侵害 |
(ii)包袋禁反言の原理
特許権利者は、特許侵害訴訟において、出願審査の過程で意見書等によって主張していた内容と矛盾する内容の主張を行うことは許されないという原則(民1条2項の信義誠実の原理に依拠)。
(iii)利用発明
利用発明とは、発明を実施するためには発明をまるごと使わなければならない関係にある発明をいいます。
利用発明は、特許が成立し得ても、その実施には先行特許の権利者の承諾が必要です。
先行特許(者) | 後発特許(者) | |
特許性 | A+B | 利用発明:A+B+C 新規性・進歩性が有れば→特許成立 |
侵害の有無 | A+Bは実施可能であるが、 A+B+Cは後発特許を侵害 | A+Bは侵害であり、 A+B+Cも実施不可である |
(4)特許権で攻める方法
(1) 雑誌、新聞、カタログ、製品、問屋、小売業者、消費者などから他社の製品関連情報を入手する
(2) 鑑定、または判定を依頼
(3) 警告 → 民法上の和解を促す
(4) 日本知的財産仲裁センター、国際商事仲裁協会へ仲裁を申し立てる
(5) 民事訴訟を提起する
・侵害差止め請求 (特許法100条)
・損害賠償請求 (民法709条)
・不当利得返還請求 (民法703,704条)
・信用回復措置請求 (特許法106条)
・補償金請求 (特許法第65条)
特許侵害事件の攻防
裁判所のステージ | 争点 | 内容 | |
侵害論 | 無効論 | 進歩性、サポート要件、実施可能要件、明確性違反等 | キルビー判決以降、裁判所での無効論の主張が正当化された。 それを受けて、特許法も、特許権侵害訴訟において、特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができないように改訂された。(特104の3) 無効資料調査が必要であるが、特許はすでに審査済みなので、ハードルは相当に高い。 |
充足論 | 出願経過参酌 | 特許権者の出願経過における意見書の内容等(包袋禁反言の原理)を参酌して権利範囲を狭く解釈する。 | |
作用効果による限定解釈 | 作用効果を奏する範囲になるように特許請求項に構成要件を追加して狭く解釈する。 | ||
実施例による限定解釈 | 権利範囲を実施例レベルまで限定して解釈する。 | ||
公知技術参酌 | 権利範囲が公知技術を含まないようにを狭く解釈する。キルビー判決以降は、無効論の主張でよいかもしれない。 | ||
作用効果不奏功の抗弁 | 被告製品が特許発明の作用効果を奏しないものとして非侵害を主張する。 認められ難いため、論法を作用効果限定解釈に変えるのが好ましい。 | ||
自由技術の抗弁 | 被告製品は自由技術であり、特許権の効力は及ばないとし、非侵害を主張する。 現在の判例では、認められ難い論法である。 | ||
(裁判官の勧告又は中間判決) | |||
損害論 | 逸失利益(特102条1項) | 原告製品の単位数量当たりの売上げ及び売上げから控除すべき経費を算定する。 | |
侵害者利益(特102条2項) | 侵害品の売上げ(単価,譲渡数量)及び売上げから控除すべき経費等を算定する。 | ||
実施料相当額(特102条3項) | 侵害品の譲渡数量、実施料率又は単位数量当たりの実施料相当額等を算定する。 |
無効論
裁判所が特許の有効・無効性を判断
充足論
裁判所が特許発明の技術的範囲にイ号物件が含まれるか否かを判断
102条1項の逸失利益の計算方法
(1)販売数量減による損害:[権利者製品1個当たりの限界利益A×(侵害品の譲渡数量B-特許権者では販売できない事情に相当する特定数量C-権利者実施能力を超えた実施不能数量D)]
+
(2)ライセンス機会喪失による損害:[特許実施料相当額E*(特定数量C+実施不能数量D)]
限界利益A = 侵害品の 製造・販売のために侵害者が要した費用を売 上高から控除したもの
特許権者では販売できない事情に相当する特定数量C ⇐ 立証は侵害者側にある。
特許実施料相当額E → 通常の実施料よりも高くなり得る(特許法第102条4項)
102条2項の侵害者利益の計算方法
(1)侵害行為による利益:侵害品1個当たりの限界利益G*侵害品の譲渡数量B
–
(2)推定覆滅に相当する額H
覆滅利益に相当する額H ⇐ 立証は侵害者側にある。
(例)市場の非同一性、競合品の存在、侵害者の営業努力、侵害品の性能差、侵害品の販売等の数量について権利者の販売等の実施能力を超える、それ以外の理由によって権利者が販売等をすることができない事情がある等
102条3項の実施料相当額の計算方法
特許実施料相当額E*侵害品の譲渡数量B
特許実施料相当額E → 通常の実施料よりも高くなり得る(特許法第102条4項)
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